キリム

ガラタバザールでは、ご紹介するキリムすべてを一枚一枚撮影しご紹介しています。すべて手織りの一点もの。1000枚を超えるキリムから、きっとお気に入りの一枚が見つかります。

時代を織り込む : 年号とサインが語る手織りラグ

年号の入ったキリム

サインと年号が語る手織りラグ

こんにちは。ガラタバザールのたくさがわです。

キリムやラグには、まれに年号や文字が織り込まれているものがあります。出てくる数は少ないので、探そうと思っても目当てのキリムが出てくるわけではなく、巡り合えるかどうかは運まかせ、偶然のラッキーなのです。
今回は、現在ガラタバザールに現品の在庫があるラグを中心にご紹介します。

目次

年号やサインの意味と歴史

どんなときに織られたラグなのだろう?

年号が織り込まれたキリムやラグは、家族の特別な記念日や重要な出来事を祝うために作られることがあります。結婚式や子供の誕生など、家族の大切な行事に祝福の気持ちを込めて織られたキリム。わくわく準備しながら織り進めて、ハレの日にお披露目!こうしたキリムやラグは家族の歴史や絆を象徴するものになって、その後も家族の宝物として扱われてきたことと思います。

もちろん、年号や名前やサインも同じです。織られているサインは、ファミリーネームだったり、新しく結ばれた二人の名前だったり、生れて来た子供の名前が織り込まれていたりします。生活道具として使い古されていくキリムとは別に、大切に保管されていたキリムは現代になって、きれいなままのとてもよい状態で出てくるのも特徴のひとつです。

年号の入ったキリム

1986の文字が織り込まれたオールドキリム

トルコではアラビア数字、西暦で年号を織る

トルコの手織りラグでは、一般的にアラビア数字と西暦が使用されて年号が織り込まれています。客観的に証明することはできないですが、キリムが織られた年代と家族のイベントは織り込まれている年に起こったと考えてよさそうです。

イランではペルシャ文字、ヒジュラ暦で年号を織り込む

イランでは、通常はペルシャ文字とヒジュラ暦が使われています。ヒジュラ暦(イスラム暦)は、西暦622年を元年としている太陰暦のカレンダーです。織り込まれた年号に580年ほどプラスするとおよその西暦になります。

2024年3月11日は、ヒジュラ暦では1445年ラマダン月の1日です。

ペルシャ文字とヒジュラ暦

ペルシャ文字とヒジュラ暦

ペルシャ文字では「・」がゼロ、「♡」の逆さが5です。キリムに織り込まれた文字は、読み取りにくいことが多いです。

時代背景も大きくかかわっている!歴史を紐解く

意外と新しい年号入りキリム

トルコでは、年号や文字を織り込むことが一般的に広まったのは20世紀以降のことです。1928年にケマル・アタチュルクがアラビア文字を廃止し、ラテン文字でトルコ語を表記する改革を行いました。この変革により、絨毯やキリムの織り手が文字を理解しやすくなりました。それ以前は、識字率が低く文字の理解が限られていたため、年号や名前を織り込むことはあまり一般的ではありませんでした。しかし、ラテン文字で分かりやすく名前や記号を表記できるようになったことで、年号や名前の入った織物が増えたと考えられます。

戦前の1930年から40年代頃のラグで年号や文字の入っているものは出てくる数がとても少なく、実際に新しい文字が広がって誰もが使えるようになったのは1950年代以降なのかなと想像しています。(実際の歴史と異なっていたらすみません)アラビア文字でサインがはいっているトルコキリムは、織られた年代が戦前のもので寺院(モスク)に納められたものを見たことがあります。

年号の入ったキリム

1945年4月2日の日付が入ったキリム。右側にはアルファベットのサインが織り込まれています

アラビア文字のはいったトルコキリム

アラビア文字が織り込まれたトルコキリム。年号は入っていないため残念ながら詳細の年代は不明です。

上流階級では古くからサインを入れていた

イラン、特にペルシャ民族によって織られたラグでは、18世紀や19世紀には、肖像画やサイン、時には文章がペルシャ文字で織り込まれることがありました。これは、当時の技術と文化の発展の結果であり、特に上流階級や王族の間で人気がありました。年号は一般的にヒジュラ暦(イスラム暦)で表記されますが、20世紀中頃からイスラム革命前の1979年まで西暦のラテン文字のサインも見られます。しかし、イスラム革命以降は、伝統的なスタイルの年号に戻っていったようです。

文字の入ったラグ

かなりの長文が織り込まれたライオンラグ。

織り手の技術とアイデアが活かされている

キリムの文字をよく観察してみると、織り手は頭の中にある文字をキリムに落とし込むのになかなか苦労している様子が見られます。
直線的な幾何学モチーフを得意とするキリムのデザインですから、数字の0、2、3などの曲線は難しいですね。結果として、これはなんて読むの?というサインも多く見られます。しかしながら、そこが手織りラグの魅力でもあり、世界で一枚だけの作品とも言える理由です。
時には、裏面から織ったためか、スタンプのように逆転している文字もあったりします。

年号と文字の入ったキリム

1962の文字が反対になってしまっていますね。

一方で、織り目の細かなラグでは、なめらかなペルシャ文字の曲線を上手に表現してあるものもあります。絨毯の工房名を入れるサインでは、熟練した職人が見事にペルシャ文字のカリグラフィを表現しています。

年号入りのラグは、その時代のラグの特徴を知る貴重な手がかり

年号入りのラグは、ほぼ織られた年と考えられる

年号が織り込まれたラグは、基本的には表記されているその年に織られたと考えられます。このため、年号が明記されているラグは、その時代に流行した色やデザインの手がかりとなります。類似のスタイルやデザインを持つ他のラグと比較することで、より具体的な時代推定が可能です。

文字の入ったキリム

完成したキリムの上から、ジジムテクニックで年号と名前がはいっている変わり種。

特徴を見ると、そのほかのラグの織られた年代も推定できる

オールドキリム、ヴィンテージラグの織られた年代を推定する手がかりは、その時代に使用されている染料の特徴が大きなヒントです。特定の時代、地域で特有の染料や染色技術が使用されていることがあります。年号が織り込まれたキリムに使われている染料と比較して、色や日焼けの具合などが近い場合には、その年号の前後10年くらいを織られた年代と推定します。

少し古いですが、年号の謎にせまるこちらの動画もごらんください。

一番最近の年号入りキリムは?

ガラタバザールで扱ってきたキリムの中で、一番最近の年号入りキリムは2004年! 2000年代に入ってからの年号入りキリムは、この一枚だけです。

年号入りのキリム

2004年の文字が織り込まれたオールドキリム

1980年代後半から、家庭での手織りラグの文化がだんだんと減少して、キリムやラグの役割も大きく変わってきました。手織りラグの多くは、輸出したり観光客に販売したりする目的で織られるようになり、家族の大切な記念を彩るためのキリムは需要が減ってしまったということなのでしょう。
年号入りのキリムやラグは歴史と文化を反映し、その特徴を理解することで、その時代の手織りラグの背景を語ってくれる貴重な資料となっているのです。

年号や文字入りのラグ一覧へ

このあとは、現在手元にあるキリムとラグをご紹介していきますね。

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